「こどもの食卓」
の仲間たち

#03 ちょっと遠くから「子ども達が楽しんでいる」のを見ている

#03 ちょっと遠くから「子ども達が楽しんでいる」のを見ている

風早橋ガーデングリルカフェ高橋雅英さん

葉山に住んでいたり、親しんでいると「なんか葉山だな」と思う人であったり、場面に遭遇することありませんか? 国道134号線沿いの葉山町・風早橋から山側に少し奥まった場所にあるパブレストラン「風早橋ガーデングリルカフェ」もきっとそんな場所のひとつ。

インスピレーションはロンドンから

国道の喧騒が薄れる住宅街、大きな庭のある一軒家のフェンスに掛けられた手描きの「風早橋ガーデングリルカフェ」の看板を見ながら、「営業している?」と不安になる静けさを分け入って、一軒家の玄関を押し開くと、「いらっしゃい」と、店主・高橋雅英さんが、ヌボっと迎えてくれる。

店内の家具や小物は主にモダンなセカンドハンドのもの。古いミシン、ギター、スタイリストである奥さんがセレクトしたアクセサリーや服も並んでいる。一般的な木造住宅の内装であったはずの室内は、注意深く手が入れられていて、無国籍風だけれど懐かしさと落ち着きがある。元「縁側」のガラスの引き戸を開けて外に出ると、手作りのウッドデッキ、その先には木々の下にガーデンファニチャーが置かれた庭。無造作さが心地良い。

「グリル」と店名にあるだけあって、代表のメニューは「ビア缶チキン」というグリルメニュー。アメリカの古い料理法だそうで、丸のままの鶏肉のお尻にビール缶(中にはビールが入ってる)を射し込んで、炭火でグリルするという料理だ。表面は炭火効果でパリッと、中はビールの蒸気でしっとりとした仕上がり。店のファンだけでなく、逗子駅前のスーパーSUZUKIYAの出張販売でも人気のメニューだ。そのほか、「葉山サバのサバサンド」(サバサンドはトルコの港町の屋台料理)や「クスクス」など、メニューは「見知らぬ海外の街角」を連想させる。実際にチキンやサバサンドをいただくと、親しみやすくて「また食べたい」と思う味で、ボリュームもしっかり。

風早橋ガーデングリルカフェ店内

おしゃれだけど気さく、珍しい料理だけれど庶民的。そんな店のインスピレーションの素は、高橋さんがかつての仕事で滞在する機会が多かったロンドンなのだそう。

高橋さんは熊本市出身。ファッション・音楽業界幾多の人材を送り出した同地で育ち、博多のライブハウスに入り浸って大人になった音楽好き。実家が美容院で美容師の専門学校に行きながら洋服屋でバイト、その店が東京に出店をするのをきっかけに東京に移住。以来約20年間、ファッション業界のリテイラーとして、販売はもちろん、バイヤー、プレス、マーチャンダイザーなど、「服をデザインするのと縫う以外は全部」を経験してきた。特に長かったのは、代官山のセレクトショップでのキャリア。イギリスのブランドから服を買い付けるためにロンドンに滞在する機会が多かった。

「イギリス人はイギリス料理を食べているわけじゃないんだよね」。南欧・東欧・北欧……ヨーロッパ各地の味があり、中東、アフリカの食材も豊富、世界中の人が住み着くロンドンは、色々な食文化が楽しめる場所。高橋さんも多様な食を経験した。

名物料理「ビア缶チキン」、焼かれ中

葉山町の「PUB」でありたい

業界に入って20年が過ぎた2005年、高橋さんは42歳。ファッション業界に翳りを感じるようになった。子どもの頃、多忙な親が用意してくれるのは主菜だけだったので自分で副菜を作っていたし、海外に出るようになり、レストランで食べたものを自作したりの料理好き。そんな高橋さんは飲食業への転業を考え始めた。

イメージしたのはロンドンの東、中古家具屋街と日曜日のマーケットでも有名なブリックレーン辺りの、近所の人が出入りする雑多な物が置かれた気取らない店……「そんな店は東京ではない」とひとまず葉山に移住、借りた一軒家から都内に通勤する生活に。カフェを営む先輩に教えを請いながら、借りた家の庭に友人を招いてバーベキュー料理を振る舞うなどしながら店の構想を膨らませた。そうこうして10年。アクセクせずに自然と調和した暮らしを楽しむ“葉山のスタイル”が見えてきた。「店をやるなら、葉山っぽく」。その目線で店舗用物件を探すと適当なものがない。多くの店舗用物件が、“都内でやるのと変わり映えしない店”になりそうだった。

そして思いついたのが、自宅に借りていた一軒家を店にすること。友人とのバーベキューの延長のような店……しかし、保守的な大家さんに、そんな話は通りそうになかった。そこで葉山芸術祭を利用することにした。誰でも自宅やアトリエで、自由な展覧会を開催できる芸術祭で友人の写真家の作品を展示し、食事を提供するオープンハウススタイルの展示を開催。そして大家さんに、「こんなのをずっとやりたいんですよね」と相談した。静かに状況を見てくれた大家さんは、数か月後にOKの返事をくれた。

それから1年、庭木を整理し、障子をガラス戸に変えるなど妻と一緒に、自分たちの手で改装を続けた。友人にバーベキュー振る舞うなかでグリル料理に興味が湧き、そのなかで見つけたビア缶チキン等、グリル料理をメインにすることに。ビア缶チキンは主にキャンプ料理で、店のメニューにしている所はあまり無く、名物料理になりそうだった。

2015年春に開店して以来、店と「ビア缶チキン」は、この地の知る人ぞ知る店&メニューに成長した。高橋さんが「こどもの食卓」に提供するのもこのメニュー。シーズニングから焼き上げまで、最低4時間と時間のかかる料理だが、子ども相手だからと手を抜くことはない。

「自分は子どもがいないし、子どもがすごく好きというタイプでもないんだけれども、 “鶏のおじさん”なんて呼ばれたりしてね。知らない子ども同士がだんだん仲良くなっていくのを見ているのはいいね。子どもは利害関係なんてないし、純粋に人と人が友達になる瞬間を眺めているのっていいじゃない」。

そういう高橋さんにとって、「(店が)ロンドンのパブっぽい感じであること」は重要なポイント。「パブ」(=PUB)とはPublic Houseの略。イギリスでは人の暮らすエリアには必ずパブがあり、仕事帰りは、家や職場に近くのいつものパブに寄って、ご近所連中とおしゃべりして、ビールをひっかけてから帰る。遅く起きた週末は家族でランチをしたり……身近にあってホッとする仲間に会える店。そんな場所であることが理想なのだそう。

「グリルチキン&ビリヤニ風ピラフ」も逸品!

from 食卓メンバー

「はやま食卓プロジェクト」始めて間もない頃、会場とチキンの提供をお願いし、開催させていただきました。その回は夏休み期間中で「自由研究」がテーマ。ガーデングリルカフェの雰囲気が「葉山の夏」にぴったりだったので「どうしても」とお願いしたのです。 最初は高橋さんの風貌にビビっていた子ども達も焼きたてチキンをもらう時にはニコニコに。本当に不思議な人です。 以来、どの会場でもBBQセットを持ち込み、時間と手間をかけて焼いてくれます。 回を重ねた現在では、本当に超強力なパートナーです。高橋さんの「子ども達のために」は私達メンバーも心を動かされ続けています。

プロフィール

高橋雅英さん1963年熊本県熊本市に生まれ育つ。19歳で上京、42歳までファッション業界で働く。2013年5月の葉山芸術祭参加をきっかけに、2014年4月に風早橋ガーデングリルカフェを開店。妻と猫2匹が家族。

風早橋ガーデングリルカフェ
神奈川県三浦郡葉山町堀内634
TEL:046-801-2120

月曜日定休 12:00~18:00
*ディナータイムの営業も電話・メールでの予約により可能です
MAIL:Takahashi.work.home@gmail.com

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