「こどもの食卓」
の仲間たち

#02 大切な場所を守ってくれる野菜づくり

#02 大切な場所を守ってくれる野菜づくり

いさむファーム早苗さん

「こどもの食卓」の仲間たち、次にご紹介するのはスタート当初より、美味しい無農・有機薬野菜を提供してくださる「いさむファーム」の早苗さんの登場です。お父様の故・岩田勇さんを継いで、美しい里山風景が広がる下山口の農園で野菜づくりをされています。

「スーパーの野菜」で分かった「家で獲れた野菜」

葉山町・下山口にある「いさむファーム」。葉山町は、海沿いのエリア・内陸のエリアとも中世から漁業・農業が盛んに行われてきた。「いさむファーム」で現在、野菜づくりをしている早苗さんだ。この場所も江戸時代から続く農地。早苗さんの曽祖父の代には兼業農家となり、父・岩田勇さんも仕事をもちながら、空いている時間で野菜をつくり続けてきた。ここでつくられる野菜は昔から無農薬だ。早苗さんは父や叔父とともに、実家の周辺に広がる広い畑を庭のようにして育った。勇さん亡き後、農園を継ぎ、無農薬・有機肥料で野菜づくりを続ける早苗さんによると、「かつては人ぷんが肥料だったんでしょうね。今は牛ふん、鶏ふん、ヌカや腐葉土を入れた土づくりをしています」という。子どもの頃から、英才教育のように野菜づくりに馴染んできたのだろうか…「子どもの頃は邪魔しかしてなかったかなぁ、大人になっても草刈りを手伝う程度で、ここで野菜をつくっていることが当たり前のことだったので、あんまり関心もなかったんですよね」という。

そんな早苗さんだが、成長して都会の専門学校に行ったり、就職し、結婚し、葉山を離れてスーパーで買った野菜を食べるようになり、初めて「うち(実家)の野菜は美味しい」と気がついた。スーパーで売っているオレンジは、綺麗に色づいているのに味が感じられない。子どもの頃から食べてきた当たり前の味、父のつくる少し小ぶりで形のいびつな野菜の良さに改めて目を向けるようになった。

家で獲れる野菜や果樹は、家族や親戚で消費。自家消費ができない量が収穫できた時には市場に卸した。しかし、手間をかけて無農薬でつくった野菜は、慣行農法(農薬や化学肥料を使う一般的な野菜の生産方法)の野菜に比べ、形が悪く、市場では買い叩かれる。

そんな状況で、高齢になっていく父の姿を見ながら、早苗さんは次第に「守っていかなければならない」と思うようになった。守るのはこの畑で収穫される野菜だけでなく、畑のある環境自体も含めてだ。起伏のある土地に年間100種の野菜や果物が少しずつ生産される畑の景観は、人と自然が手を取り合って互いの生を紡ぎ出すかのような場所だ。「ここが無くなったら生きていけない。大切な癒しの場」であることが、早苗さんの中で、次第にはっきりしてきた。

3月下旬、プラムの白い花が満開のいさむファーム

「形」の向こうにある価値がわかる人へ届ける

そんな風に思い始めた2011年、「葉山芸術祭で屋外に作品を展示する場所をアーティストが探している。岩田さん家で協力してもらえないだろうか?」という話が舞い込んだ。作家とは横須賀市秋谷在住の造形作家、笠谷耕二氏。イタリア留学を経て日本での活動を再開したところで、観る人をクスリとさせる明るいシュールさが作風の作家だ。「作品を見に来る人に、畑も見てもらおう」と考えた早苗さんは、申し入れを受け入れ、「いさむファーム」という名前で葉山芸術祭に参加することにした。岩田家の敷地に設置された笠谷氏の作品は、巨大なファスナーが傾斜地に埋め込まれ、まるで地面をファスナーが開いていくような作品。

作品を観に来た人が作品だけでなく、畑の景色を眺め、野菜づくりに興味を持ちながら野菜を買ってくれる、そんな交流の中で、70歳を超えた勇さんも、イキイキとしているようだった。作品設置をきっかけに、この場所で新たな何かが切り拓かれたのだった。

早苗さんは、翌年には、葉山一色地区にある森山神社で年1回開催される「までいなマーケット」にも出店をするようになる。オーガニック素材や手間と時間をかけた物作り理念にしたマーケットで、同じ感覚を共有する人が集まる。さらに、葉山公園近くのアウトドアフィットネスクラブ・BEACH葉山での販売や、森山神社で毎週土曜日に開催される「土曜朝市」にも出店も開始した。早苗さんが各コミュニティと繋がりを持ち、勇さんが野菜をつくる。顔の見える範囲の人たちに少量の収穫物を流通させるという、「いさむファーム」ができ上がっていった。そのスタイルが定着した2014年、勇さんは76歳の生涯を閉じた。

いさむファーム

「植える品種は、父の頃と大きく変えてないですね。興味のある作物はありますが、自分が料理に使わない珍しい野菜は美味しさの基準もわからないので、手出ししません。季節にあった獲り立ての野菜を送り出すという基本を守るのが大切なのかな、と思っています」。

畑から「こどもの食卓」に提供しているのは、「美味しいけれど虫食いが多くて自家用にせざる得ない野菜。“どんな野菜でもいいですよ”と言ってくださるので、その時にあるものを提供していますが、使いこなしてくださる食卓プロジェクトの皆さんがすごいですね、無駄なく使って頂き、ありがたいです」という。

初夏になりプラムが枝に実る頃には、近隣の幼稚園の子ども達がお母さん達と一緒に収穫に、親しい人がジャガイモを掘りに、BEACH葉山の会員が「いさむファームツアー」と題した畑見学の日を楽しみにしている。勇さんの遺した畑は、いま、多くの人にとっての大切な場所となっている。

獲りたてのブロッコリー。生でも美味しい

from 食卓メンバー

いさむファームは、はやま食卓プロジェクトの運営開始直後から、声をかけてくださった心強い食材提供元のひとつです。また、地元の食材を子供達に届けたい、というプロジェクト構想のひとつを実現してくれた方でもあります。お野菜は獲れたてで本当に新鮮! 虫が食べていたり、形がバラバラだったりしますが、むしろそれらは有機野菜である証です。メンバー全員で、感謝の気持ちを込めて、毎回丁寧に調理しています。

プロフィール

早苗(さなえ)さん葉山町下山口地区の兼業農家、岩田勇氏の長女として産まれ、葉山で育つ。高校卒業後、渋谷の専門学校に通い、卒業後は建築関連の職業に従事、その後結婚し、横須賀に移住。2000年より、父の農業を本格的にサポートし始め、2011年、自宅の農園を「いさむファーム」と名付けて、無農薬・有機栽培の野菜を葉山内のいくつかの場所で販売を開始する。父亡き後も、母と父の弟である叔父と共に野菜づくりと販売を続ける。

いさむファーム
葉山町下山口463
TEL:090-6026-1420

いさむファームの野菜が買える場所
●BEACH葉山:毎週火・金
葉山町下山口1488
TEL:046-854-4046
●森山神社 土曜朝市:ほぼ毎週土
葉山町一色2165
開催情報はこちらでご確認ください。
●までいなマーケット(森山神社)
葉山町一色2165
開催情報はこちらでご確認ください。

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